遺産分割協議で相続放棄はできない

遺産分割協議書で相続放棄はダメ

相続の手続きでは、通常は共同相続人全員で話し合いを行い、誰が相続するか、どの財産を引き継ぐか、という協議を行います。
この協議のことを、遺産分割協議と言います。
遺産分割の協議がまとまったら、遺産分割協議書を作成し、相続人全員が署名捺印を行います。この捺印は、実印で押印して、印鑑証明書も用意することになります。

借金・負債を一人の相続人が相続する

ここで、被相続人が銀行や消費者金融などの貸金業者から借金を抱えていたり、知人の連帯保証人になって保証債務を負っていたりする場合に、その負債をどのように取り扱うかが問題となります。

たとえば、相続人のうち長男が、
「自分が実家を相続して、お墓の維持管理もしていく。その代わりに、借金もすべて引き受けるから、遺産分割協議書にハンコを押してくれ」
と言った場合はどうでしょうか?

遺産分割協議書に、

  • 長男が、自宅の土地・建物を相続する。借金も相続する。
  • 次男・長女は、相続を放棄する。

と書いてあった場合、この遺産分割協議書に署名捺印したら、相続放棄ができるでしょうか?

実は、この内容の遺産分割協議書にハンコを押したとしても、相続放棄をすることはできないのです。
それどころか、この遺産分割協議によって、相続を承認したことになり(単純承認)、今後、相続放棄をすることができなくなるという、逆の結果になってしまうのです。

遺産分割と相続放棄の決定的な違い

遺産分割協議と相続放棄の一番の違いとしては、以下のとおりです。

相続放棄

相続放棄をすると、はじめから相続人にはならなかったという扱いになります。
この効果は絶対的なもので、相続人とならない以上、どの債権者に対しても、相続放棄をしたことを主張することができます。

そして、相続放棄の手続きは、家庭裁判所に放棄の申述をするしか方法はありません。

遺産分割協議

遺産分割の話し合いの中で、「借金を相続したくないから相続を放棄する」という取り決めをしたとしても、それは共同相続人の間での話し合いでの決め事という効果しかありません。
したがって、上記の事例で長男が借金を払えなくなってしまった場合、被相続人の債権者は、長男以外の次男・長女に対しても、借金の督促・請求をすることができます。

相続放棄のよくある勘違い

相続放棄についての間違いとして、
「相続人で話し合いをして、遺産分割協議書をつくって、相続を放棄するという内容で印鑑を押したから、自分は借金を負っていない」
という話をよくお伺いしますが、これは間違いです。
借金を相続せず、債権者から請求を受けない状況を作るには、家庭裁判所での相続放棄の手続きを行う必要があります。

なお、遺産分割の場合でも、債権者の同意を得れば、借金について免責を得ることができます。
しかし、貸金業者側としては、同意をすることによってみすみす請求先を減らすことになるため、これについては期待しないほうがよいでしょう。

遺産分割後に相続放棄はできるか?

ここまでの話で、遺産分割と相続放棄がどのように違うかという点は、理解していただけたかと思います。
それでは、もうすでに相続人同士での遺産分割協議をして、遺産分割の手続きは完了してしまった。
ただ、やっぱり借金が怖いから家庭裁判所で相続放棄の手続きをしておきたい。
という場合は、相続放棄の手続きは可能でしょうか?

答えは、この場合は原則として相続放棄はできません。
遺産分割協議に参加して、協議書に署名捺印を行ったということは、
自分が相続人であるということを認め、相続財産については受け取らない、という行動をとっているわけです。
つまり、遺産分割の手続きは、相続の単純承認にあたるということになります。

相続について単純承認をした場合は、それ以降、相続放棄を行うことはできなくなります。
借金を相続しないために、よかれと思って遺産分割協議書に印鑑を押したのに、とんでもないことになってしまったということもあります。

なお、相続の状況によっては、遺産分割後でも相続放棄ができる場合がありますが、あくまで例外的な取り扱いとなりますので、
原則として遺産分割後の相続放棄はできないという点に十分注意をしてください。

遺産分割協議書に印鑑は慎重に

このように、遺産分割協議書にハンコを押したから、相続は放棄しているという誤った認識は持たずに、
協議書に印鑑を求められたら、問題ないかどうかよく確認をするようにしましょう。
被相続人の相続財産(遺産)の内容・内訳・金額等がはっきりしないのであれば、相続の手続きを代表で行っている方に確認をして、特に借金や連帯保証人などのマイナスの財産があるかどうかのチェックを怠らないようにしてください。

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